常に夢の中へ届くその声の語り口が、今日はどこか普段とは異なっていた。
「そうだね、私は……グレイヴキーパー。墓所の護り手。死にゆく世界に手向けた花」
そう告げられて浮かぶのは、元よりくすんだ安物の造花。
あるいはグレムリンのエンブレムに描かれた、決して褪せない図画の花。
「この世界は致命的な不具合を持っている」
知っているさ。
年寄りどもはいつでもこんな世界は間違っていると言う。コーンミールに顔をしかめ、水にコーヒーシロップを流し込みながら。
語るだけの正しさに辿り着けないことなんかとっくに知っているくせに。
目の前にいるのがその間違った世界しか知らない人間だとわかっているくせに。
「次会う時は、今度こそ。
『迷わないでね』」
そんなことを求められるのなら、何も言わずに戦場に放り込んでくれればよかった。
俺に関わる誰もがするのと、この錆びきったグレムリンと俺を引き合わせたその時と同じように。
ただ倒すべき敵だと示されれば、それを鉄屑にすることに何の躊躇もない。
そこに迷いが生まれるとすれば。
鳴り響くアラームに薄ら開いた瞼、ぼやけた視界に映るモニターの空。その赤に奇妙な濃淡がある。
画面さえイカれてきたか、あの機体状態から見れば仕方ねえ、なんて寝惚けた頭で考えたことはまったくの見当違いだと気が付いたのはすぐのこと。
雨音列島に降る粉塵交じりの赤い雨粒は静かに降り続いて、絶え間なくカメラを濡らしていた。
そこへ被るように開いたウインドウがでかでかと映す、音に合わせて点滅する真紅連理のマーク。どうやら呼び出しの主はここらしかった。
通信を繋げる。どうせ顔は出ない設定にしているから、欠伸さえ噛み殺せば問題はない。
「やっと繋がったか。
こちら第28真紅連理テイマー隊隊長、巨大未識別融合体に対する合同作戦に伴う要請に応じ――」
モニターに映る顔そのものに見覚えはなかったが、姿はどうにも既視感まみれだ。
真紅のテイマー、特に下っ端ってのは誰も彼もが揃いのヘルメットに統制スーツで、俺から見れば誰が誰だかもわからない。
義務感たっぷりに読み上げられるお決まりの台詞の隠しもしない苦々しさは、呼び出しておいて散々待たせたのがよっぽど堪えているか、あるいは正規軍にありがちな傭兵嫌いか。
どっちだってよかった。せいぜい、後者ならこんな時にまでよくもまあ、と思うくらいだ。
それでわざわざ戦場でまで纏わりついてくる程度にどうしようもなければ、エレクトロフィールドを手配するくらいはするだろうが。