なおも襲い来る未識別機動体を撃墜しながら。
最初の一手で小兵を撃墜。その撃墜から起きる思念を丹念に追う。それがぶつかって揺れたところを目掛けて跳躍。
得手通りの電撃戦が敵陣を殲滅するまでに10分。
『サーシオネ』に乗るのとそう変わらない。逆関節機なら調整次第で近づくはずだとは思ったが、ここまでとは思わなかった。
デジタル表示の時計へ目を向けながら、つくづく長ったらしかった二時間前を思い起こす。
この方がずっと俺の好みだ。
とはいえ、こうして早期にカタをつけて飛び続けてもペンギン諸島到達まではそれなりにかかる。
敵影捕捉を10分おきに3回。そのどれにも何の影も映らないのを確認して、操縦をオートパイロットへ。
この間にやるべきことをやってしまうべきだ。
機体内のデータログを見ての出所解析。それに何より、セキュリティシステムを使った専用機体化――可能なら生体認証とテイマーズ・ケイジ登録番号による二重認証で。
結論から言えば見つかったのはジャンクデータの山、山、山。
まともに運用されていたなら当然あるはずのケイジ登録番号だの、テイマー登録名だのは何一つ見つからない。
未使用品、それか登録逃れのヤミ品か?
そう考えればこの機体状況も通るが、そんなモンを全くの部外者に見つかるような場所に置くものか。
ただ、どんな機体だろうがあるだけでできることは格段に増える――というより、グレムリンのないテイマーほど無力なモンもない。
テイマーを殺すには下りたところを狙うのが定石だ。グレムリンのない人間でも簡単にできる、テイマーにある程度の護身が必要になる理由。
何があろうと手放すわけにもいかない。少なくとも『サーシオネ』がまた飛べるようになるまでは。
提示するのは声紋と虹彩。それとともに、とっくに暗記済みのテイマー登録番号を棺内のタッチパネルへ打ち込む。
誰のことも知らなかったグレムリンはこれで俺のものになった。
こんなことになる前から、動くグレムリンが欲しい連中なんていない方がおかしかった。今なら猶更だ。
人の多い青花工廠へ行けば引く手も数多だろう。その前に捕まえておく必要がある。
青花工廠の連中が手を出そうが、最悪俺がどうにかなろうが、手放せやしない。
ただ、名乗るべき名前も示すものもないのは単純に不便だった。
せめて機体名だけでも、と考えても、さして名前なんてつけたこともない。つける先がないんだから。
『サーシオネ』も俺が付けた名前じゃない。アルテアのグレムリンは、皆名付けられてから俺たちの元へ来る。
そうして悩むのも得意じゃない。悩んで迷っているうちにテイマーは死ぬ。
思い浮かべるのはさっきの10分。その間の動き。
そこに見えるのは墜下する長嘴。
フォールスビーク。
これで十分だ。
時間はまだまだ余っていたからヘタクソなエンブレムを書き足して、一応の体裁を整える。
……これでもし、工廠の『サーシオネ』がけろっと息を吹き返していたら?
それが一番いい。これが全部徒労に終わってくれる方が、よほど。
「こちら『フォールスビーク』、そういうことになった――」