グレムリンテイマーは廃格納庫の中、奇妙な電話によって目を覚ます。
「おはよう。目は覚めたかな?」
一拍遅れて同じ二つの声が重なる。そうであっても、内容がはっきりとわかる──知っているからだ。未来のことを。
テイマー以外にはわからないその感覚が、しかし今ここにあるのはひどく違和感があった。
俺の制御識《未来》は、グレムリンに乗っていなければ──助けがなければ発揮し得ない弱々しい代物のはずなのに。
悪魔の祝福とでも呼ぶべきそれが、しかしそうするものなく動いている。エンジンを欠いて動く火器のような気色の悪さ。それこそ霊障とでも呼びたくなるような。
「この電話ももう三回目だね。
世界を救う、始まりの朝。でも、もう遅いんだ」
そしてこの声にも、そうしてテイマーでないものがテイマーの世界を聞く時のような違和感がある。
辿り着けないどこかから話をしている。
それを見る目、聞く耳、そうしたものを持たなければ決して行けないはずの場所から。
「僕は破滅を知っている。それは避けられない。
もし君が《また》、僕の邪魔をするのなら、今回も僕が勝つよ」
その違和感、わけのわからなさの塊の中にふと納得を見つける。ああ、『だから』俺は言い返さなかったんだ。何も訊かなかったんだ。
きっと俺はすべて訊いた。お前は誰だ。「もう遅い」って何だ。お前の制御識は。
そしてこいつは応えなかった。そうして喋りたいままに喋って、電話を切った。
俺の知るその未来だったいつかに反して、電話はそのままに切れる。
脳裏をよぎる環状のイメージ。
いまのこの通話はひどく一方的な、例えるなら矢印のはずなのに。
そうしてぐるぐると螺旋を描く連環が、迷うことなく向かう先がある。
「破滅の間際にて、停滞せよ、世界」
「世界はいまのままで十分、美しいのだから」